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岡山地方裁判所 平成10年(ワ)69号 判決 1998年12月03日

本訴原告・反訴被告

西山直美

本訴被告・反訴原告

中村隆子

主文

一  被告は、原告に対し、金一四六万〇七三六円及びこれに対する平成九年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告に対し、金四万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、原告、被告各勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告の本訴請求

被告は、原告に対し、金二九五万七六七一円及びこれに対する平成九年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告の反訴請求

原告は、被告に対し、金四五万円及びこれに対する平成九年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告、被告がそれぞれ互いに同一の交通事故によって被った損害の賠償を求めた事案である。

一  争いない事実等(証拠を示した部分以外は争いがない)

1  本件交通事故

(一) 日時 平成九年四月五日午前八時四〇分頃

(二) 場所 岡山市白石西新町八番地の一〇〇先市道上

(三) 原告車両 普通乗用自動車(所有者、運転者原告)

(四) 被告車両 普通乗用自動車(所有者、運転者被告)

(五) 事故態様 原告車両と被告車両が交差点で出会い頭に衝突した。

(原告車両と被告車両の所有者については甲第一号証、乙第三、第四号証)

2  責任原因

被告は、本件交通事故現場の交差点に進入するにあたり、前方左右の安全確認を怠ったから、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づく責任を負う。

二  争点

1  損害額

(一) 本訴請求についての原告の主張

(1) 車両修理費用 金八一万二六三七円

(2) 代車費用相当額 金七万一〇〇〇円

(3) 治療費 金三五万六三四〇円

(4) 休業損害 金四七万二四八四円

但し、一日五七六二円の八二日分

(5) 慰謝料 金七〇万円

(6) 弁護士費用 金二六万円

(二) 被告の認否反論

いずれも不知であるが、特に以下の点を反論する。

(1)について、原告車両の時価評価額は五〇万円である。

(3)の治療費のうち、金二八万五二一〇円は支払済みである(争いない)。

(4)の休業日数は六二日間である。

(5)は通院日数からすると高額に過ぎる。

(三) 反訴請求についての被告の主張

(1) 車両損害 金四〇万円

但し、全損とした場合の時価評価額である。

(2) 弁護士費用 金五万円

(四) 原告の認否

いずれも不知。

2  原告の過失の有無及び過失相殺

(一) 被告の主張

(1) 原告には、本件交通事故現場の交差点に進入するにあたり、前方注視義務及び安全確認義務があるにもかかわらず、これを怠った過失があり、民法七〇九条の責任を負う。

(2) 原告は、被告車両に気付いた時点で、直ちに停止できる速度にまで減速すべきであったにもかかわらず、これを怠ったのであるから、四割の過失相殺をすることが相当である。

(二) 原告の認否

否認し、争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  原告に生じた損害

(一) 物的損害

甲第二号証、乙第四ないし第六号証及び証人楠田栄三郎(以下「楠田」という)の証言によれば、以下の事実が認められる。

(1) 楠田は、社団法人日本損害保険協会の登録アジャスター(損害査定人)として、修理費、代車時価価格、時価評価額の算定等の職務を行っており、原告車両の修理費を七四万七二九五円と査定した。また、原告車両は、平成五年登録のスズキセルボモード軽自動車であり、同等の中古車の小売価格は、レッドブック、シルバーブックによれば五〇万円、イエローブックによれば四三万円であることから、時価を五〇万円と査定した。レッドブックは東京地方、シルバーブックは中国四国九州地方、イエローブックは京浜地方の中古車平均小売価格を記載したものである。

(2) 原告が修理業者に原告車両の修理費の見積もりを依頼したところ、修理費は八一万二六三七円とされた。

以上によれば、原告車両に生じた損害は、いわゆる経済的全損であって、損害額は時価(再調達価格)に限定されるべきであり、地域性に鑑みてシルバーブックによる金五〇万円をもって相当と認める。なお、甲第三号証によれば、原告車両と同車種で平成六年式の自動車の中古車価格を七〇万四五五〇円とする見積書が存在することが認められるが、原告車両は平成五年に登録されたものであるから、右証拠を採用することは相当でない。

また、代車費用は、これを認めるに足りる証拠はない。

(二) 人的損害

(1) 治療費 金三三万二四九〇円

甲第四ないし第一〇号証、乙第一三ないし第一六号証の各1、2及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件交通事故によって、両膝及び胸部打撲傷、外傷性頸部症候群の傷害を負い、平成九年四月五日から同年一一月四日まで通院治療を受け、治療費として川崎医科大学附属病院に五万二五三〇円、赤司整形外科医院に二七万九九六〇円、計三三万二四九〇円を支払い、もしくは請求されていることが認められる。

原告の主張する治療費は計金三五万六三四〇円であるが、乙第一二号証の診療報酬明細書に記載された治療内容は甲第六号証の診療報酬明細書に記載された治療内容に包含されるものと認められるから、乙第一二号証に記載された二万三八五〇円は損害として認定しない。

(2) 休業損害 金三六万三〇〇六円

乙第一七号証によれば、原告の休業期間は、平成九年四月五日から同年六月六日までであることが認められ、日数は六三日間となる(右証拠に六二日間と記載されているのは誤りと解される)。前記治療経過に鑑みて、その全てが本件交通事故と相当因果関係のある休業と認める。

右証拠によれば、原告の休業前三か月(平成九年一月から三月まで)の収入は合計五一万八六一二円であることが認められ、右期間の日数九〇日で除すると、平均日収は五七六二円と算定される。

そうすると、休業損害は左記計算式のとおり金三六万三〇〇六円と算定される。

計算式 五七六二×六三=三六万三〇〇六

(3) 通院慰謝料 金六〇万円

原告の負傷の程度及び通院期間に鑑みれば、原告が本件交通事故によって被った精神的苦痛を慰謝するには金六〇万円をもって相当と認める。

原告の人的損害及び物的損害の合計額は、金一七九万五四九六円と算定される。

2  被告に生じた損害

乙第三号証によれば、被告車両は平成三年登録の三菱ミニカであり、アジャスターによって修理費は五四万七六八〇円、時価額はレッドブックを参照して四〇万円と査定されたことが認められる。

そうすると、被告車両に生じた損害は、経済的全損として、金四〇万円が相当と認められる。なお、シルバーブックによる算定がされていないが、原告車両においてレッドブックの金額とシルバーブックの金額が同額であったことに鑑み、被告車両の損害をレッドブックによって算定したことは不合理とはいえない。

二  争点2(過失の有無及び過失相殺)

1  乙第一、第二、第九号証の1ないし6、第一〇号証の1ないし8並びに原告及び被告各本人尋問の結果(いずれも信用しない部分を除く)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件交通事故現場は、交通整理のされていない交差点の中であり、原告車両は北進中、被告車両は東進中だった。被告車両の走行していた車線には、交差点の直前で一時停止の規制がされていた。事故当日の天候は雨だった。

(二) 右交差点の南西角は荒れ地で建造物等がなかったため、交差点手前においては、原告車両、被告車両相互からの見通しは良かった。

(三) 本件交通事故直前、被告車両の左右の窓ガラスは雲っており、被告は手でガラスを拭いたが曇りは取れず、そのまま被告車両を運転していた。

(四) 被告は、右交差点手前で一旦速度を落としたが、安全には一時停止せずに交差点に進入した。

(五) 原告車両の走行していた車線は比較的交通量が多く、原告車両の前を走行する車両との車間距離は一〇ないし一五メートルだった。また、前方の信号が赤だったため、原告車両は、前の車両と共に減速していた。

(六) 原告車両の破損個所は前部、被告車両の破損個所は右側面部だった。

これに対し、被告は、交差点直前で標識に従い一時停止したと供述するが、一方において、安全に停止したか否かは定かでないと供述していることや、被告車両が一時停止後徐行して交差点に進入したのであれば、被告車両の右側面部に損傷があるのは不自然と考えられることに鑑みれば、一時停止後の徐行でなく、単に減速して進入したに過ぎないものと認められ、被告の右供述は直ちに信用することができない。

また、原告は、徐行しながら交差点に進入したと供述するが、一方において、直ちに停止できる速度ではなかったと供述しているから、前記認定に照らし、減速したに過ぎないものと認められ、徐行していたと認めることはできない。

2  右認定事実を前提に原告の過失の有無を判断すると、交差点直前において原告の車線に一時停止の規制がないからといって、何らの注意も払わずに交差点に進入して良いというものではなく、交差点の左右から進行してくる車両の動向に注意して、交差点に進入することが予想される車両に気付いた場合には直ちに急制動等によって危険を回避する義務があり、原告には左右の安全確認を怠ったまま漫然と交差点に進入した過失があるというべきである。

3  進んで双方の過失割合を判断すると、被告の走行していた車線には交差点手前で一時停止の規制がされていたのに、被告は一時停止せずに減速しながら漫然と交差点に進入したこと、原告は減速しながら交差点に進入したこと、原告は減速しながら交差点に進入したこと、被告において左右の窓ガラスが雲っているのに窓を開けて安全確認をするなどの措置をとることなく漫然と交差点に進入した点に著しい過失が認められることを考慮すれば、過失割合を、原告について一、被告について九とするのが相当と認める。

4  そうすると、原告、被告がそれぞれ相手方に請求できる損害額は、左記のとおりに算定される。

(一) 原告 一六一万五九四六円

計算式 一七九万五四九六×〇・九=一六一万五九四六

(二) 被告 四万円

計算式 四〇万×〇・一=四万

三  損害の填補

被告が、原告に生じた人身損害の治療費として、金二八万五二一〇円を支払ったことは当事者間に争いがない。

そうすると、損害の填補後の原告の損害額は、一三三万〇七三六円と算定される。

四  弁護士費用

事案の内容、訴訟の経過及び損害額等本件に顕れた一切の事情に鑑み、原告については一三万円、被告については五〇〇〇円をもって、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。

五  結論

よって、原告の本訴請求は金一四六万〇七三六円、被告の反訴請求は金四万五〇〇〇円の限度でそれぞれ理由があるから認容し(本件交通事故の日である平成九年四月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付することを要する)、その余の本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判官 酒井良介)

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